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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)190号 判決 1964年6月16日

原告 東洋紡績株式会社

被告 ダイヤシヤツ株式会社

主文

特許庁が昭和三四年審判第六一号事件について昭和三七年一〇月一日にした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

主文同旨の判決を求める。

第二請求の原因

一  原告は、特許庁に対し昭和三四年二月一六日、被告の有する登録第四四〇三一五号商標(以下本件登録商標という。)について登録第三四六二二三号商標(以下引用登録商標という。)を引用し、本件登録商標の登録無効の審判(昭和三四年審判第六一号)を請求したところ、特許庁は、この請求に対し、昭和三七年一〇月一日請求人の申立は成り立たない旨の審決をし、同審決の謄本は、同月一四日原告に送達された。

二  本件登録商標は、別紙記載のとおり「BLACKDIA」の英字および「クロダイヤ」の片仮名文字を上下二段に左横書きにして成り、指定商品を旧商標法施行規則(大正一〇年農商務省令第三六号)第一五条第三六類(以下旧第三六類という。)被服、手巾その他本類に属する商品とし、昭和二七年二月二八日出願、昭和二九年二月一八日登録にかかるものである。一方、引用登録商標は、別紙記載のとおり、「Diamond」の英字を筆記体をもつて左横書きにして成り、指定商品を旧第三六類メリヤスンヤツその他被服とし、昭和一六年九月一一日登録、昭和三七年二月二六日更新登録にかかるものである。

三 本件審決の理由の要旨は、つぎのとおりである。すなわち、まず、本件登録商標が引用登録商標と外観において相違することは、その構成上明らかである。また、観念についても本件登録商標の「BLACKDIA」「クロダイヤ」ないしBLACKDIAMOND、黒色ダイヤモンドは、石炭の別名または俗称としてひろく一般に用いられているし、また、BLACKDIAMONDひいて「クロダイヤ」「BLACKDIA」がCarbonadoまたはCarbon Diamond(不透明で黒ずんだ色の不規則塊状のブラジル産ダイヤモンドで硬質ゴム、セルロイド、ガラスの旋削等の工業用または試錐用等に用いられる。)を意味するとしても、その場合、それは通例宝石としてのダイヤモンドとは別個に概念されるから、結局、本件登録商標からは、通例の場合に、「石炭」の観念が生じ、ときに工業用試錐用のCarbonadoの観念が生ずるとしても、色彩が黒く等級の低い宝石としてのダイヤモンドの観念は生じないというべきところ、一方、引用登録商標の文字が宝石であるダイヤモンドを意味することは明らかであるから、両者は、観念を異にする。さらに、称呼についてみても、本件登録商標の観念が右のような意味を有するものであるから、その文字中「BLACK」「クロ」はダイヤモンドの色彩や品質等級をあらわすものではなく、「DIA」「ダイヤ」の文字と結びついて別個の概念を生じさせるものであり、したがつて、本件登録商標からは、通例「ブラツクダイヤ」「クロダイヤ」の称呼だけが生じ、単なる「ダイヤ」の称呼は生じないとすべきである。これに対し、引用登録商標からは、「ダイヤモンド」の称呼が生じ、ときに「ダイヤ」と略称されることがあるとしても、本件登録商標の右称呼とは明らかに判別可能である。両者は、称呼においても異なる。したがつて、本件登録商標の登録は、本件に適用のある旧商標法(大正一〇年法律第九九号)第二条第一項第九号に違背してされたものでもないし、同項第一一号に該当する事実も認められないというのである。

四  けれども、本件審決は、つぎの点において違法であり取り消されるべきである。

1  本件登録商標は、「BLACKDIA」「クロダイヤ」の文字を普通の書体をもつて上下二段に横書きにして成り、そのうち「DIA」「ダイヤ」がわが国において金剛石すなわちダイヤモンドの略称として一般に認識されているのであるから、この構成からみれば、何人も、本件登録商標の主体とするところは、一般世人に認識せられ印象づけられているダイヤすなわちダイヤモンドにあり、これに黒色の色彩をあらわす形容詞「BLACK」「クロ」を冠したものにほかならないと認めうる。このような構成の商標において、それから自然に生ずる観念は、主体をなしている文字本来の観念を脱することがなく、色彩をあらわす文字との結合によつて別異の観念を派生するとは認められない。しかも、一般に「BLACKDIA」「クロダイヤ」とは、金剛石すなわちダイヤモンドの一種に属し黒色の色彩を有するダイヤモンドとして存在し、その普通の称呼である(宝石としての黒ダイヤモンドのほかに、カルボナードと称するいつそう結晶の不完全な黒ダイヤモンドが存在する。甲第三二号証の二ないし六および一〇、同第三四号証の二等参照。したがつて、本件審決が黒色のダイヤモンドは、ダイヤモンドの一種ではなく、それがカルボナードを意味するとしても、宝石としてのダイヤモンドとは別個の概念であるとしたのは誤りである。)。つまり、本件登録商標は、黒色のダイヤモンドすなわちダイヤモンドの一種を直接にあらわし、ダイヤモンドの観念を有し、したがつて、「Diamond」の文字から成る引用登録商標と観念において類似することが明らかであるのに、本件審決は、本件登録商標の「BLACKDIA」「クロダイヤ」の文字のみにとらわれて終始し、両者を類似でないとしたものであり、本件登録商標の構成ないし実体について誤認をしているばかりでなく、その構成上「ダイヤ」「ダイヤモンド」が主要部であるのに、これから何故にダイヤモンドの観念を生じないとするのかについて理由を明らかにしていない点で理由不備の違法がある。

本件登録商標から生ずる観念は、審決のいうように、石炭だけに限られない。もともと、「BLACKDIA」「クロダイヤ」の語義には(一)黒色のダイヤモンド、(二)カーボンダイヤモンド、(三)カルボナード、(四)赤鉄礦、(五)ルーレツトの記号、(六)石炭(本来Black diamondsと複数であらわしたときに石炭の語義を生ずる。)がある。審決は、そのうち(二)(三)(六)についてだけ判断し、その余ことにそれが黒色のダイヤモンドを意味することについては、何ら顧慮していない。これは、一般に新造語でない普通の外国語の文字から成る商標については、普通外来語の簡単な訳語についての観念を生じ、かつ、その観念は訳語が二つ以上ある場合でも、必ずしも最も普通な一つに限られるものでないというべきであるのに、この点についての判断を誤つたものである。また、本件登録商標の「BLACKDIA」「クロダイヤ」が今次終戦頃の一時期に石炭の別名として用いられたことがあるとしても、およそ、商標は存続期間の更新登録によつてその権利が永続するものであるから、右のように一時期に使用された転用字義をもつてその商標の観念の全部とすることができないことは明らかである。少くとも、字義の転用があつたとすれば、その以前にその語が自然にもつていた固有の字義があるべきはずであり、それが本件登録商標の観念である前述の黒色のダイヤモンドである。この事実を不問に付した本件審決は、事理に反し実験則を無視したものである。しかも、黒ダイヤが石炭を意味するときも、それは、ダイヤモンドの貴重な価値を想定することが基礎となり、石炭の商品価値を高く愛称するために用いられているのであつて、「BLACKDIA」「クロダイヤ」の文字が基本の黒色のダイヤモンドの観念を離れて、ただちに石炭の観念だけを生じているものではない。

2  商標の類否判断をするに当つては、対比的観察、離隔的観察をするだけでなく、その商標が使用される商品の取引業界における実際、ことに通例簡易迅速が尊ばれ商標が略称される実情をも考慮しなければならない。本件登録商標の指定商品は、旧第三六類被服、手巾その他本類に属する商品であり、老若男女を問わず一般の衣料需要者を対象とするものであるから、本件登録商標にあらわされているとおり忠実に「ブラツクダイヤ」「クロダイヤ」印とだけ称呼されるとはとうてい考えられない。「BLACK」「クロ」の文字は、ダイヤモンドの色彩をあらわし「ダイヤモンド」「ダイヤ」の称呼観念の中に吸収されるべきであることは否定できず、結局、簡略に「ダイヤ」印と呼ばれる可能性は多分にある。これと異なる判断をした本件審決には重大な過誤がある。被告も他の訴訟事件において本件登録商標を「ダイヤ」印と称呼し、かつ、これが当事者間にひろく「ダイヤ」印として知られていることを認めている(甲第三三号証の一ないし四)。

右のとおりであるから、本件登録商標は、引用登録商標とその観念、称呼においてたがいに類似し、その指定商品においても類似しているから、旧商標法第二条第一項第九号の規定に違背して登録されたものとして、その登録を無効とされるべきものである。本件審決は、判断を誤つたものである。よつて、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

第三被告の答弁

一  「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。

二  請求原因第一ないし第三項の事実は認めるが、同第四項の点は争う。

1  本件登録商標を構成する「BLACKDIA」「クロダイヤ」の語は、わが国においては、一般に、石炭の俗称または代名詞として理解され、使用されている。それは、原告のいうように「黒色のダイヤモンド」あるいは「ダイヤモンドの黒色のもの」という語義を有しない(乙第一一ないし第一三号証の各一ないし三、第一四、一五号証の各一、二、甲第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし三。いずれも辞典)。そして、本件登録商標は、被告の有する登録第四二一一五〇号商標と連合する商標として登録されている。この商標は、「黒ダイヤ」の文字の頭に「Coal」すなわち石炭の文字を一連にあらわして「Coal黒ダイヤ」をその構成要部とするものであるから、その文字どおりに「石炭」を指称する商標であることは明らかである。本件登録商標がこの商標と連合すべきものとして登録出願され審査のうえ異議の申立もなく登録されるにいたつたことは、引用登録商標の権利者を含めすべての者が、本件登録商標が連合する商標との関係で、石炭を積極的に意味する商標であると認識した結果によるものである。つまり、本件登録商標の「BLACKDIA」「クロダイヤ」の文字は、わが国の一般社会常識または通念においてはもちろん、辞典の示す語義においても、また、登録出願人の主観的意図、特許庁の審査および公衆審査のいずれの場合においても、すべて積極的に石炭を意味する独立別個の概念として把握認識されている。したがつて、原告が本件登録商標を無理に黒色のダイヤモンドを指称すると主張するのは誤りであつて、本件審決の認定には誤りがない。

一般に、金剛石は、暗色でない明るい美麗な光ぼう(輝き)があるからこそ、高価な指輪等に用いられるのであり、明るい色とはまつたく反対のしかもその独得の光ぼうを打ち消すような黒色をした低級なダイヤモンドを、一般が直接に認識または想像するということは、常識上考えられず、むしろ、そのようなものは、一般には「黒い色をしたダイヤモンドのようなもの」すなわちダイヤモンドではなく異質のダイヤに似た鉱石の一種として受け取られるであろう。ことに、わが国はダイヤモンドの生産国ではなく、また、保有量も他に比し少ないから、生産国や富裕国におけるように、まれに存在するといわれる変つた色のダイヤモンドに接することはほとんどなく、仮にあつたとしても、特定のごく一部の者に限られるわけであつて、一般すなわち本件登録商標にかかる指定商品の取引者や需要者の間においては、「黒色のダイヤモンド」そのものの実在を直感認識しうるものは、ほとんどないであろう。ごく限られた一部の者がこれを知るとしても、不特定多数の取引者または需要者とみることができないことはいうまでもない。なお、甲第三二号証の一ないし一〇には、黒いダイヤモンドが存在する旨記載されているけれども、それは、あくまで斯界の権威者の著述にかかる学術専門書であつて、一般性がきわめ乏しいものであるから、これをもつて「クロダイヤ」すなわち「黒いダイヤモンド」の観念として社会通念化しているとはいえない。このことは、同号証の五に、日常市場において取り扱われるダイヤモンドはいずれも白色を基本とする旨記載されていることによつても明らかである。したがつて、本件登録商標を構成する「BLACKDIA」「クロダイヤ」の文字をもつて「黒色のダイヤモンド」を指すものとする原告の主張は、まつたく実際にそわない。

2  また、本件登録商標中の「BLACKDIA」「クロ」の文字は、「DIA」「ダイヤ」の文字と一連不可分に構成されているばかりでなく、上述のとおり、両文字が一体に結びついて別個独立の観念すなわち「石炭」を生ぜしめるものである(本件登録商標においては、色彩をあらわす文字が基本となる物品、事象等と結合してはいるが、その基本の概念から脱し、まつたく別個独立の「石炭」という観念を生じている。)から、本件登録商標からは、「ブラツクダイヤ」「クロダイヤ」の称呼だけを生じ、単なる「ダイヤ」印の称呼は生じないとみるべきである。なお、原告は、被告の別件における陳述を指摘するところがあるけれども、事件の性質を異にする本件には関係がない。

本件登録商標は、引用登録商標と、外観において相違していることはいうまでもなく、観念および称呼においても相違することは前述のとおりであり、本件審決の理由とするところはすべて正当であるから、同審決の取消を求める原告の本訴請求は、失当として棄却されるべきである。

第四証拠<省略>

理由

一  特許庁における本件審判手続の経緯、本件登録商標および引用登録商標の各構成、指定商品および出願と登録と更新登録の各日、本件審決の理由の要旨についての請求原因第一ないし第三項の事実は、すべて当事者間に争がない。

二  右争のない事実と成立について争のない甲第一および第六号証とによれば、本件登録商標は、別紙記載のとおり「BLACKDIA」の欧文字をほぼ等間隔のキヤピタルレター八字でサンセリフ書体風に左横書きにし、さらに、その下に「クロダイヤ」の片仮名文字を右欧文字とほぼ同じ大きさでアンチツク書体風に左横書きにして成り、指定商品を旧第三六類被服、手巾その他本類に属する商品とし、一方、引用登録商標は、別紙記載のとおり、毛筆筆記体で「Diamond」の欧文字を左横書きにして成り、指定商品を旧第三六類メリヤスシヤツその他被服とするものであることが明らかである。

1 (一) そこで、まず本件登録商標についてみると、その「BLACK」も「くろ」(黒)もともに事物の色彩や性質を示す語として、きわめてひろく一般に使用されており、一方、「DIA」「ダイヤ」は、ダイヤモンドの略称としてこれもきわめてひろく一般に使用されていることは顕著な事実であるから、「BLACKDIA」「クロダイヤ」の文字をもつて構成されている本件登録商標が、前示指定商品ことにあらゆる階層、性別、年齢等のだれもが例外なく需要し、ひいては、きわめて多数の取引者に取り扱われるべき被服等に用いられるときは、きわめてひろく一般に用いられる右の語意とダイヤモンドが貴重有用なものとして何人にもよく知られ特に親近なものであることに徴し、容易自然に、これを「黒いダイヤモンド」と、さらにはときに親しみやすくかつ印象的な「ダイヤ」「ダイヤモンド」(金剛石)と簡略に、商品の優れていることをあらわすものであることを連想しつつ、観念されるにいたるであろうことは、たやすく理解しえられるところである。もとより、「BLACKDIA」「クロダイヤ」の語は、これが一面で石炭の美称として用いられることのあることは、成立について争のない乙第一二、一三号証の各一ないし三、第一四、一五号証の各一、二その他の証拠をまつまでもなく明らかではあるが、右指定商品の需要者、取引者の間において「BLACKDIA」「クロダイヤ」が被告の主張するように常に石炭としてだけ観念されると認めるに足りる証拠はない(もつとも、成立について争のない甲第一〇号証の二には「black diamond石炭」なる記載があるけれども、右乙号各証と対比してにわかに採用できない。)。そればかりでなく、「BLACKDIA」「クロダイヤ」が石炭を意味する語として観念される場合においても、それは、石炭を宝石ダイヤモンドになぞられて美称したものであり、貴重有用なダイヤモンドの観念をもともと前提としているものであることは顕著な事実である。そして、ダイヤモンドに黒色のものがあり、それが装身具にも用いられていることは、成立について争のない甲第三一号証、第三二号証の一ないし六によつても明らかであるし、そのような黒色のダイヤモンドと「クロ(黒)ダイヤ」「BLACKDIA」とが、本件登録商標の指定商品の需要者、取引者の間において、もつぱら別異の意味をもつものとして区別して観念されているとの事実を認めるに足りる証拠はない。なお、ダイヤモンドの黒色のものが黒ダイヤまたはカルボナードと称せられ工業用試錐用に用いられるとしても、それがダイヤモンドであることには変りがないばかりでなく、宝石用工業用といつてもつねに明確に区別できるものではなく、ただそのうち色や光輝、品質において低度で研磨しても宝石用に適しないものが工業用にまわされるというだけであつて、それは右に認定したとおり黒色のダイヤモンドも装身具に用いられていることによつても明らかであり、結局、いずれにしても他のもののもたないダイヤモンド特有の優れた美麗さ、貴重さあるいは高い硬度、耐腐蝕性その他の特性にもとづいて、それぞれ古くからダイヤモンドとしてひろく望まれ尊重されて来ているのであり、この点において黒色のダイヤモンド、黒ダイヤも、右のダイヤモンド特有の性能にもとづき尊重され、いろいろの用途に用いられているのであるから、「BLACKDIA」「クロダイヤ」の文字で構成されている本件登録商標がその指定商品について使用されるときは、前示のとおりの需要者、取引者の間においては、おのずから、「ダイヤモンド」の観念を生ずるものと解するに少しも妨げがない。なお、「BLACKDIA」「クロダイヤ」ないし黒ダイヤモンドが上述と異なる意義を有することが著書や辞典類に示されているとしても、本件登録商標についてどのような観念が生ずるかは、その指定商品の需要者、取引者らが商標の構成にもとづきこれをどのように観念すると認められるかによつて決せられるのであり、必ずしも商標の文字等について著書や辞典類に示されたとおりの語義が商標の観念となるものではないから、右判断の妨げとならないことはいうまでもない。

以上によれば、本件登録商標は、たとい一方で石炭の観念を有することがあるとしても、また、ダイヤモンドの観念をも有するものというのが相当である。被告は、本件登録商標は「黒ダイヤ」の文字の頭に「Coal」(石炭)の文字をあらわした登録第四二一一五〇号商標と連合すべきものとして登録されたものであり、この点からも石炭の観念だけを有するといえると主張する。けれども、商標の有すべき観念、称呼は、必ずしも一つに限られないし、一つの商標から二つ以上の観念、称呼が生ずる場合、その一つの観念または称呼が他の商標の観念、称呼と同一または類似であるときは、両商標は類似するものというべきであるから、右主張の採りえないことは明らかである。

(二) ところで、引用登録商標については、同商標がその構成上、ひろく一般に尊重される貴重有用な「ダイヤモンド」(金剛石)の観念を有し、それが宝石としてのダイヤモンドの観念を含むとしても、それに限るとの限定をもつものでないことは明らかである。したがつて、本件登録商標は、引用登録商標と「ダイヤモンド」の観念を同じくし、その指定商品においてもたがいに類似することは多く説明を要しないから、両者は、類似するものといわなければならない。

2  しかも、本件登録商標の称呼についてみると、その構成上、「ブラツクダイヤ」「クロダイヤ」との固有の称呼が生ずることのあるのは明らかであるとして、そのほかに、同商標の前示構成とダイヤモンドの観念を生ずるとの前示1における判断と簡易迅速を旨とする取引の実情とを合わせ考えるときは、前示需要者、取引者に特に親しみやすく印象的で簡潔な「ダイヤ」印との称呼もまた生ずべきことをじゆうぶん肯認することができる。一方、引用登録商標について「ダイヤモンド」の称呼が生じ、ときに「ダイヤ」印と略称されることのありうることは疑がないから、両商標は、称呼の点においても類似するものということができる。なおその成立に争いない甲第三三号証の一ないし四によれば、被告は他の訴訟事件について提出した準備書面においてではあるが、被告は、その代表者である荒谷伊三郎が有していた「黒ダイヤ」、「Coal黒ダイヤ」なる商標および本件登録商標を受け継ぎ、また、自己の商品たることを示す表示として『ダイヤシヤツ』なる商品名を付したシヤツを販売しており、商号も昭和三〇年八月には、右にちなみ『ダイヤシヤツ株式会社』なる現在の商号とするにいたつたものである旨を主張していることが認められ、このことは間接にではあるが、被告の本件登録商標の要部が「ダイヤ」にあり、世人はこれを「ダイヤ」印と呼ぶものであるとの右認定を裏付けるに十分なものと解せられる。

被告は、両商標はたがいに非類似であるとして種々主張するところがあるけれども、以上に直接判断したもののほか、いずれも右判断にそわないものであるから、採用できない。

三  右のとおりである以上、本件登録商標と引用商標とが非類似であるとした本件審決は、その余の点について判断をするまでもなく、判断を誤つた違法のものといわなければならない。したがつて、その取消を求める原告の本訴請求は、理由があるから、これを正当として認容することとし、なお、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し、よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 原増司 荒木秀一 影山勇)

(別紙)

本件登録商標<省略>

出願   昭27.2.28

公告   昭28.8.12

登録   昭29.2.18

指定商品 旧36類

(大10農商務省令36号)

被服、手巾その他本類に属する商品

引用登録商標<省略>

出願   昭15.5.14

公告   昭16.5.22

登録   昭16.9.11

指定商品 旧36類

メリヤスシヤツその他被服

更新登録 昭37.2.26

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